歯科の豆知識

わかっちゃいるけど、やめられない!

最近は社会全体が「禁煙」傾向ですが、それでもまだまだ喫煙者は多いですよね。

「百害あって一利なし」とわかっているものの、やめられない。実際に病気になって、やむを得ずという場合や、病気になってもやめられないという人まで…。「ニコチン依存症」の怖さを感じます。

タバコの煙にも、直接タバコを吸う「主流煙」タバコから出る煙「副流煙」一旦吸って吐き出す煙「呼出煙」があり、「副流煙」と「呼出煙」の混ざった煙を吸うことを「受動喫煙」といいます。

これもすでにご存知の方が多いと思いますが、直接タバコを吸うより「受動喫煙」のほうがさらに害が多いのです。

成人なら肺がん、脳卒中、心筋梗塞、動脈の破損、ぜんそく、歯周病など。

子どもなら突然死、気管支喘息、慢性呼吸器障害、虫歯、肺炎、中耳炎など。

もちろん直接吸う「喫煙」が一番体に悪いのですが、受動喫煙でもディーゼル車の排ガスの約10倍リスクが高いことも分かっています。

また、タバコの煙に含まれる化学物質の内容を知れば、その恐ろしさもわかると思います。4000種類の化学物質がふくまれていて、そのうち200種類は有害物質、発がん性物質は50種類以上!!有害物質で有名な「ニコチン」「タール」を始め、ペンキの除去剤に含まれる「アセトン」、アリ殺虫剤に含まれる「ヒ素」、カーバッテリーに使用される「カドミウム」、一酸化炭素工業溶剤の「トルエン」など。このラインナップを見ただけでも、どんなに体に悪いかがわかりますよね。

 

■意志の弱さとは関係ないニコチン依存症

かつてタバコは嗜好品だから、「タバコをやめられないのはその人の意志の問題だ!」と思われていました。もちろんそれもあるでしょう。しかし最近ではそれ以上に「心理的依存」と「身体的依存」が合体した「ニコチン依存症」という薬物依存症として認識されています。

喫煙者にたずねるとタバコを吸うと「スッキリする」「気持ちが落ち着く」などと言いますが、吸わなければ逆に「イライラする」「集中できない」「食欲増加」などが起こります。

ひどい症状の人になると「抗うつ」の症状まで現れるそうです。これはニコチンが肺から入り、脳までわずか数秒で達し、脳細胞から快感物質である「ドーパミン」が分泌されます。だからまたタバコが吸いたくなるのです。

もはやただ意志の強い弱いでは解決できない「ニコチン依存症」という病気。一人で解決は難しいので、禁煙外来で、禁煙補助薬や、ニコチン製剤などを使って医師や薬剤師に相談して1日も早い治療をおすすめします。

■歯科からも警告

タバコは口から吸いますから、タバコに含まれる有害物質を前歯の裏、歯ぐきや上あごにダイレクトに受けてしまいます。また、間接的にも血液を介して有害物質が体内に入り、歯周病菌は活発に活動し、免疫細胞は元気がなくなるため細菌と戦わなくなり、ヤニはプラークの温床になります。口から直接、または血液から間接的に、ダブルで影響を受けるのです。

さらに、喫煙者は歯周病が悪化しやすい上に、見逃しやすくなります。歯周病の初期には腫れや出血があり、それで気づく人も少なくないのですが、喫煙者はタバコに含まれる有害物質の影響で歯ぐきが固くなるので出血や腫れが起きにくく、それが逆に発見を遅らせて、重症化してしまうことがあります。また、血中酸素不足により、歯ぐきの中も酸素不足になり、細菌が住みやすい環境を作ってしまい、細菌も増殖しやすくなります。「喫煙者の歯周病の進行は非喫煙者よりも6倍以上も早い」というデータもあります。

タバコを吸う人は吸わない人に比べて、だいたい半分の治療効果しか出ないという結果もでています。

 

■喫煙で失う歯もあります

タバコを吸っていると、この歯周病に気づくのが遅れ、治りにくく、進行が早まってしまいます。その結果、歯周病の悪化により歯が抜けてしまい、歯を失うことになっていくのです。「歯が抜けたらインプラントにすればいい」という方ちょっと待ってください!

タバコはインプラント周囲炎を引き起こす原因にもなります。(インプラント周囲炎とは、インプラントの歯周病のこと)。だからインプラントにしても歯周病になり、治りにくいリスクは変わらないのです。

 

■直接自分で吸わなくても…

また、「タバコは吸わないから大丈夫!」と思う方も先ほども説明した「受動喫煙」により、自分で直接タバコを吸わなくても健康被害につながります。

この「受動喫煙」は喫煙者がフィルターを通して吸う主流煙よりも有害物質を含んでいますから、とくに、育ち盛りのお子さんへの悪影響は大きく、歯科でも受動喫煙の影響で歯ぐきが黒っぽく変色したお子さんが気になる時があります。

ご家族にお伺いすると「おじいちゃんもお父さんもタバコを吸っている」という答えがよくかえってきます。お子さんがおられるご家庭で、もしもそのような症状がみられたら、「受動喫煙」の影響が出ているのかもしれません。

自分自身の身体や歯によくないのはもちろん、自分の家族や周囲のひとにまで健康被害を与えるタバコ。喫煙者の方は、そろそろ本気で禁煙に取り組んでみませんか。

 

 

 

 

 

参考、引用 nico『2018年3月号p.39~p.45 』クインテッセンス出版(株)
日本禁煙学会『資料集タバコQ&A』
(online http://www.jstc.or.jp/modules/resource/index.php?content_id=3)
ファイザー「すぐ禁煙.JP」(online https://sugu-kinen.jp/