歯科の豆知識

歯科治療と持病のお話

■健康診断の結果や、服用中の薬について教えてください。

 

 

歯医者さんに行くと、

必ず問診票で現在かかっている病気や、飲んでいるお薬のことを聞かれますよね。

歯科とからだの病気なんて関係ないんじゃない?と思わず、

絶対に全てお答えいただくようにお願いします。

実は、お口は血液を介して全身と繋がっているのです。

歯や歯ぐきには血液が流れていて、心臓が届ける血液中の酸素や栄養によって生きています。

そして血液は常に循環しているので、

歯と歯ぐきに流れた血液も心臓に戻り、再び身体のすみずみへと送り出されます。

そのため、持病が歯科治療に影響を与えることがあるのです。

また持病の治療薬によっては、知らせないまま歯科治療を受けると

副作用で取返しのつかないことが起こる可能性があります。

 

特に、下記に該当する方は要注意です。

 

・抗血栓薬(血液サラサラになる薬)を飲んでいる

・ビスフォスフォネート製剤(骨粗しょう症治療薬)を使っている

・ステロイド薬を使っている

・血糖値が高い

 

ひとつひとつ、詳しく説明していきます。

 

■抗血栓薬を飲んでいる

ワーファリンをはじめとする血液がサラサラになる抗血栓薬は、

脳梗塞などの治療薬として用いられており、現在数百万人が服用しているとも言われています。

抜歯の時や歯ぐきを切った時に血が止まらなくなると困るから、と薬の服用をやめてしまうと、

血栓ができ発作が起きるリスクも上がってしまいます。

日本循環器学会のガイドラインや、日本有病者歯科医療学会のガイドラインにも、

「抗血栓薬を中断せずに治療を行うことは可能、むしろ内服を続けた上での治療が望ましい」と示されています。

ただしINR値という、血液の凝固指数がどの程度かで決まってくるので、

血液検査の数値を伝えていただくことが大変重要になります。

他にもワーファリンと抗菌薬(ペニシリン系、セフェム系等)、消炎鎮痛薬(アセトアミノフェン、メフェナム酸等)は、

一緒に服用すると抗血栓薬の血中濃度が高まり、出血リスクが増すことがあります。併用には注意が必要です。

 

■ビスフォスフォネート製剤を使っている

ビスフォスフォネート製剤(以下BP製剤)は、骨粗しょう症の治療薬として多くの方に使用されています。

しかし最近、抜歯などの治療を受けた際の傷や顎(アゴ)の骨への刺激が原因で、

BP製剤を継続的に内服している方の顎の骨が壊死してしまう場合があることが分かってきました。

BP製剤に関連する骨の壊死は顎にのみ発生が確認されており、

その原因として顎の骨を覆う薄い口腔粘膜が傷付きやすいこと、

お口の中には沢山の細菌が存在し、顎の骨は感染の影響を受けやすいこと等が考えられています(下図参照)。

米国口腔外科学会では主に抜歯、インプラント治療、根尖外科手術、

骨への侵襲を伴う歯周外科処置を危険因子として挙げています。

注射用BP製剤投与患者にこれらの治療をした場合、

治療をしていない患者に比べて顎骨壊死の発現率が7倍以上にもなるとされています。

BP製剤を内服している方への治療は、休薬も含めて担当医師と充分相談の上決定し、顎骨壊死の予防に努めます。

しかし危険性は全くなくなる訳ではありません。

そのため、定期的な経過観察とお口の中のメインテナンスの徹底が重要です。

 

 

■血糖値が高い・ステロイド剤を使っている

糖尿病にかかっている方は、細菌感染を起こしやすくなっています。

必要な感染対策として抗生物質を事前に飲んでいただくこともありますので、血糖値を歯科医師にお伝えください。

また喘息やリウマチ、アレルギーなどの治療でステロイド薬をお使いの方も要注意です。

長期間使用している場合、歯科治療のストレスでショックを起こしやすくなったり、

細菌感染が起きやすくなったりしています。

 

■安全な治療のために

今回は代表的な例をいくつか挙げて、歯科と医科の治療や薬との関係をお伝えしました。

しかし注意すべき病気や薬は他にもあります。

私たちは、毎日飲んでいる薬の副作用や、かかっている病気によって、

皆さんに不利益が及ばないように最大限配慮した治療を行っています。

そのためには皆さんのご協力が必要不可欠です。

小さなことでも結構ですので、何かありましたらその都度教えてください。

とはいえ色々な薬を服用していると、ひとつひとつ覚えるのは大変です。

歯科医師に情報が正確に伝わるように、お薬手帳をお持ちいただくようにお願いします。

治療内容によっては健康診断の結果をお持ちいただくこともあります。

安心・安全な治療のため、ご理解とご協力をよろしくお願いします。

 

 

参考・引用

・クインテッセンス出版(株)nico 『2014年10月号 デンタルアーカイブ』

・日本循環器学会

『循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版)』

・学術社

一般社団法人 日本有病者歯科医療学会

公益社団法人 日本口腔外科学会

一般社団法人 日本老年歯科医学会 /編

『科学的根拠に基づく抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン2015年改訂版』

・ビスフォスフォネート関連顎骨壊死検討委員会

『ビスフォスフォネート関連顎骨壊死に対するポジションペーパー(改訂追補 2012 年版)』

・社団法人日本口腔外科学会 監修

『ビスホスホネート系薬剤と顎骨壊死~理解を深めていただくために~』

・日本歯科医師会 『テーマパーク8020』 https://www.jda.or.jp/park/