歯科の豆知識

花粉症の薬に潜む危険

 

新しい生活に胸躍らせる季節がやってきましたね。
環境が変わる節目の時期に合わせて髪型を変えたり、いつもとは違うオシャレを楽しんだりする方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんな楽しいイベントの多いこの時期にやっかいなのが「花粉症」。
当院でもこの時期になると問診表に「花粉症の薬を服用中」と記入される方をよく見かけますが、実はこのお薬の中には歯科治療において思わぬ落とし穴となることがあるのです。

 

●花粉症とは?

 

 

一般的には花粉症と呼ばれていますが、正しくは季節性アレルギー性鼻炎といいます。
環境省によりますと2019年時点の日本人の花粉症有病率はなんと42.5%!

5人に2人が花粉症になっています。

またスギ花粉症の有病率は38.8%で、花粉症になっている人のほぼ9割がスギ花粉のアレルギーを患っているといえます。
その他、ブタクサやヒノキなど、日本では約60種類もの植物がアレルゲン(アレルギーの原因物質)であるといわれています。

 

花粉症になると、下記のようなさまざまな症状が現れます。
・くしゃみ
・鼻みず
・目のかゆみ・充血
・のどがイガイガする
・皮膚のかゆみ など
症状の重さも人によって異なり、ひどい方だと日常生活に支障が出てしまいます。

 

●花粉症の薬
そんなときに活躍するのが花粉症の薬です。
これには大きく2種類存在します。

●対症療法:花粉症の症状を和らげる

・第1世代抗ヒスタミン薬
ヒスタミンとよばれる症状を引き起こす原因物質が、血管や神経に作用するのを防いでくれる薬です。
主に鼻みずやくしゃみなど、起きてしまった症状を速やかに鎮めてくれる効果が期待できる一方、眠くなるなどの副作用が出ることもあります。

・第2世代抗ヒスタミン薬
同じような症状に効きますが、第1世代との大きな違いは、ヒスタミンが放出されるのを防いでくれることです。
ヒスタミンが放出されたあとに効果を発揮するのが第1世代で、そもそもヒスタミンを放出させないようにするのが第2世代です。
薬の効果を最大限高めるためには、症状がひどくなる前に服用することが大切です。

ですので、今起きている症状をどうにかしたい場合は第1世代を、これからの症状を防ぐためには第2世代と、状況によって抗ヒスタミン薬を使い分けるようにしましょう。

この他、ステロイドなどさまざまな症状を緩和する薬が存在しています。

 

●根治療法アレルゲンを体に慣れさせて、アレルギー反応を少しずつ弱める(アレルゲン免疫療法)
・皮下免疫療法(減感作療法)
皮下免疫療法や減感作療法とも呼ばれる方法です。
アレルゲンとなる花粉の抽出液を皮下注射し、少しずつアレルギー反応を弱めていきます。
平成22年度の厚生省長期慢性疾患総合研究事業では、スギ花粉症をお持ちの80%以上の方が、この方法で症状が軽症、無症状になったと報告されています。
効果の期待できる治療方法ですが、危険な副作用が起こることもありますので、しっかりと医師と話し合ったうえで選択するようにしましょう。

 

●舌下免疫療法

 

 

舌下から体内に投与する新しい方法です。
皮下免疫療法は注射をしなければならないため、身体的・精神的ストレスがかかりやすく、また投与後一定時間は病院で待機する必要がありました。
舌下からの投与であれば注射がなくなるのはもちろんのこと、副作用のリスクが低く自宅で手軽に行えます。
ただし、毎日服用しないと効果がなくなってしまいます。
皮下免疫療法と舌下免疫療法のメリット・デメリットを踏まえて検討するようにしましょう。

このほかにもさまざまなアレルゲン免疫療法の研究が進められています。
近い将来には、さらに便利な治療方法が見つかるかもしれません。

 

●歯科治療との以外な関係性

スギ花粉症の舌下免疫療法の薬:シダキュアは、実は歯科治療を進めるにあたり気を付けなければならない薬なのです。

シダキュアの取り扱い説明書には、下記のように記載されています。

○次の場合には、この薬を使用せずに医師または薬剤師に相談してください。
・喘息発作時や気管支喘息の症状が激しいとき
・急性感染症にかかっているときや、体調が悪いとき
・抜歯後や口内炎など口の中に傷や炎症があるとき
○この薬の使用開始初期(およそ 1 ヵ月)に、口腔内の副作用が多くあらわれます。
症状があらわれた場合には、医師または薬剤師に相談してください。

 

舌下免疫療法は副作用のリスクが低いとされていますが、お口の中に傷や炎症がある場合は重大な副作用であるアナフィラキシーショックが起こりやすいと言われています。
抜歯などの外科的な処置を予定している、もしくは直近で外科処置を行った方は、必ず医師に相談のうえ、それぞれの治療を進めるようにしましょう。

また5歳以上であれば子どもでもシダキュアを使用することができます。
歯の生え変わりなどで自然と口の中に傷ができやすい時期ですから、こちらも必ず医師に確認をとってから服用を開始してください。
特に子どもの場合はおとなに比べてアナフィラキシーショックが起こりやすいとされていますので、シダキュアを服用する際はいつも以上にお子さまの状態には気を配ってくださいね。

今や国民病ともいえる花粉症。
歯科医院を受診する際は、たかが花粉症の薬だからと自己判断せず、服用中のお薬がある場合は必ず申告するようにしましょう。

 

 

 

 

参考:

患者向医薬品ガイドより

的確な花粉症の治療のために

環境省 花粉症環境保険マニュアル2022年版より