歯科の豆知識
歯周病は自分で治せるのか
秋の気配もだんだんと色濃くなってきましたが、そのぶん朝夕の寒暖差が激しくなり、体調を崩しやすい時期にもなってきました。特に寝冷えなどにはご注意くださいね。
さて、先日患者様からこんな質問を受けました。
「歯肉炎って言われたんですけど、歯周病のことですか?治せるなら自分で治したいです。」
むし歯については学校で習ったことのある方もいらっしゃるかもしれませんが、歯周病についてはCMで聞いたことがある程度という方も多いのではないでしょうか?
今回は歯周病について詳しくみていきましょう。
●歯周病とは?
歯周病について解説する前に、まずは歯の仕組みを理解していきましょう。
歯は歯ぐきに支えられていると思っていませんか?
実際は歯ぐきではなく、歯槽骨(しそうこつ)と呼ばれる骨に支えられています。
歯ぐきは歯を支えるためではなく、歯や歯槽骨を守るコーティングの役割を果たしてくれているのです。
そして、歯と歯ぐきの境目には歯周ポケットと呼ばれる溝があります。
歯周ポケット内には汚れや菌がたまりやすく、それらがやがてプラーク(歯垢)や歯石となります。
この段階では何の問題もないのですが、このプラークはいわば菌のかたまり。
例えば、夫婦2人でちょうどいい大きさの家に住んでいて、子どもが3人産まれて、それぞれの両親とも一緒に暮らすとなると、今よりも大きい家への引っ越しを考えますよね。
菌も同じように、増殖すればするほど、自分たちの住処をどんどん拡大していきます。
歯周ポケット内で増殖した菌は、歯の根っこに沿って、歯ぐきの奥深くまで自分たちのエリアを拡大していきます。
こうして、歯ぐきに炎症が起こり、やがて歯を支える歯槽骨が溶けていきます。
歯槽骨の支えを失うと、次第に歯は揺れ始め、最終的に歯は自然と抜け落ちてしまうのです。
これが歯周病のメカニズムです。
歯肉炎とは、炎症が歯ぐきでとどまっている状態のことを言います。
いつ歯槽骨に影響が出始めてもおかしくない状態なので、歯周病予備軍とも呼ばれます。
●歯周病の治療方法
結論から申し上げますと、一度歯周病が進行してしまったら、自分で治すことはほぼ不可能です。
例えば、転んですり傷ができたとします。
すり傷自体は、放っておいても自然と治ります。
ところが、この傷に菌が感染して化膿した場合はどうでしょうか?
化膿した部分を放置するだけでは、ますます悪くなる一方ですよね。
これと同じことが歯周病でも起きています。
化膿した傷口同様に、原因となる菌が増殖して歯周病は進行していくので、この増えた菌をどうにかしない限り、歯周病は治すことができません。
つまり、歯周病の治療=増殖した菌を取り除き、お口の中の菌量をコントロールすることなのです。
今どれだけの菌が自分の口の中にいるか、見ることもできなければ、計量器などで計ることもできません。
だからこそ、定期的に歯科医院に通い、菌量を一定に保つ治療を受け続けることが、歯周病を予防する一番の近道になるのです。
●歯周病はうつる?!
「全世界で最も蔓延している病気は歯周病である。
地球上を見渡してもこの病気に冒されていない人間は数えるほどしかいない。
歯周病は人類史上最も感染者数の多い感染症である」
歯科業界では有名な話ですが、実は歯周病はギネスにも認定されている感染症なのです。
歯周病菌は、唾液を介して人から人へと感染します。
生まれたばかりの赤ちゃんのお口の中には、歯周病菌は存在していません。
小さなお子さんへの感染は、生活をともにする親などからの食べ物の噛み与えが原因となることがあります。
大人から大人へは、キスや箸・ストローの共用などによって感染する恐れがあります。
つまり、子どもの頃は大丈夫でも、大人になってからうつることもありますし、反対に誰かにうつしてしまう可能性もあります。
いつ、どこで、誰から歯周病菌をもらってもおかしくない世界で、私たちは生活をしているのです。
特に恋人や親しい友人、家族など、関係性が近しいほどに感染しやすく・させやすくなります。
自分の口の中を健康に保つことは、自分のためだけではなく、大切な誰かの健康を守ることにもつながるということを、よく覚えておきましょう。
●歯周病は予防が肝心!
ここまでお伝えしてきたように、歯周病は一度進行してしまうと、自分の力だけで治すことは難しい病気です。
そして、その唾液を介し、別の誰かの口の中へと感染が広がってしまいます。
だからこそ、まずは歯周病にならないように、しっかり予防することが肝心です。
歯科医院では、日々の積み重ねで増殖した菌をリセットすることはできますが、増殖した菌によって受けた、歯ぐきや歯槽骨のダメージをもとに戻すことはできません。(外科的な治療を行えば、ある程度まで回復することはできます)
歯周病によるダメージを最小限に抑えるためには、なるべくお口の中の菌が増えないように、日々のお口のケアを頑張ることがもっとも重要なのです。
例えば、朝・昼・夜、食後に歯みがきをする方であれば、
1日3回×1か月(30日)=90回
1か月に90回お口のケアをしたことになります。
歯科医院での予防治療は、3か月~6か月に1回なので、
90回×3~6か月に1回=270回~540回に1回
この270回~540回で減らしきれなかった菌を、専門的に治療していくのが歯科医院の予防治療となります。
つまり、普段のケアをいかに丁寧に行えているかによって、次の予約までにどれだけ菌が増えているか、歯周病が進行しているか、大きく違いが出てくるのです。
普段の歯みがきの仕方に自信がない。
今の自分の口の中の状態が知りたい。
歯周病になっていないか心配。
少しでも気になることがあれば、お気軽にご相談くださいね。
いつまでも美味しく楽しく食事ができるように、今からしっかりと予防していきましょう。